2019-01-01から1年間の記事一覧
中華屋の客はほとんどが建設作業員 「中華屋・ぶんぺい」はいつの間にか満席になった。客のほとんどが建設作業員だ。 騒がしい中で徹は「ちゃんぽん麺」をすすりながら目を閉じた。熱いのだ。 「弟さん、クリーンモリカミで働いてどれくらいになるんですか」…
昼から生ビールを飲む顔の大きな男 徹は文平の言う、たかど、という名前を聞いたことがなかった。 「たかどさん・・・・ですか」 「確か、『キタキツネビル』で働いているって言ってたな」 顔の大きなベートベン似の男が言った。 「『キタキツネビル』ですか…
中華屋で会った顔が大きい男 徹は「ラッキー園」を出ると道の向かい側の「中華屋・ぶんぺい」の暖簾が出ているのを確認した。信号が青に変わったのを確認すると、急ぎ足で歩道を渡る。 「こんちわ」 「中華屋・ぶんぺい」の戸を開ける。ガラガラと音を立てて…
昼飯は中華屋のぶんぺい しばらくして伸江に続き明子も控室も出た。高齢者施設「ラッキー園」の午前中の清掃の仕事はこれで一段落する。午前11時40分過ぎ、徹はクリーンモリカミのスタッフが常駐する控室を出ると、そのまま施設のエントランスへと向かった。…
仕事も早いが話しぶりも早い人 「とにかく、明日、チェックするから、綺麗に磨くのよ」 明子は話を戻すとお茶を飲んだ。 シングルマザーの飯山伸江も戻ってきた。「お疲れさまです」 伸江はいつもの早口で言うと控え室奥の自分のロッカーの方に向かう。「お…
ひたすら身体を動かし続ける仕事 徹は「ラッキー園」の総務の部屋を過ぎ、奥の小さな清掃員用の休憩所に入った。午前11時、そろそろ明子も伸江も休憩にはいる時間帯だ。 徹の仕事は午前6時から午後3時までと契約されているが、実際には午前中は11時半ごろ…
渡り鳥の飛来に感謝する 徹はカートから落ち葉の入った90ミリリットルのビニール袋を取り出し、高齢者施設「ラッキー園」の庭の隅にある横用具入れ隣のゴミ収集倉庫に置いた。 ピーッ、ピピピ、どこからかツグミの鳴き声が耳に届く。 目の前に広がる青い空と…
人間も夏眠や冬眠すればいいのに 清掃の仕事の悪さを指摘されるたびに、森木徹は一体、このばあさんどうしたの?と思うくらいに、突然に雷神のような顔に豹変し、睨みをきかす明子を思い出しながら、(・д・)チッと舌打ちする。『ったく、るせいババア』だと思…
やっぱ、人の命を奪う自然は恐い キーンと冷気が張る静かな金曜の午前9時過ぎ、ピピピッ、ピピピッ、ピピピ・・・銀杏の木々が青空にそびえ立つ園内に、ツグミのさえずりだけが森木徹の耳に響く。徹の3メートル程先に立つ柿の枝々で2羽のツグミが行き交う…
一寸先は闇でも、俺は生きている 俺はまだ、こうして生きている。 バイクを降りヘルメットを前の籠に入れながら森木徹は、ぽつりと言う。 9月から10月にかけて日本列島をモンスター台風が襲った。 かつて日本人が経験したことのない巨大な台風は、ここ数か…
あらすじ 片山と良子たちは客の柴田たちを送ると料亭に戻った。そこで片山が意外な柴田の状況を聞かされる。第☆章の最終回。 客の柴田の意外な容態 「今日、四階に来たお客さん」 ふと良子が言った。「柴田さん・・・ですか」 片山がボードに記入されていた…
料亭「鈴音」での土曜の自動車メーカーの宴会は終了した。続いて4階のお客である柴田の食事会も終わろうとしている。片山は女将の良子に頼まれた通り、マーガレットの咲く庭に出て、花を切り始めた。 料亭の庭に咲くマーガレットとコスモス 片山は「鈴音」…
「鈴音」では自動車会社の客たちの宴会が終わり、片山たちは「ひまわり」の部屋に清掃に入った。今日はもう一軒、客が来ている。4階の「紅葉」には柴田紀夫が家族を連れてきていた。良子は柴田にメニューの説明を始めた。 庭に咲くマーガレットの意味 「鈴…
土曜日の午後2時、片山は「鈴音」に着いた。ビルの中では昼から自動車会社の宴会が開催されていた。今日はもう一件、予約が入っているという。まだ、宴会が終了するまでには時間がある。片山は鶴子と倉庫で立ち話を始めた。九州には台風が上陸し、やがて関…
今まで本など読む時間がなかった鶴子が、本を読みだしたのは最近のことだ。それも時代小説ばかり読んでいた。そんな鶴子は宮沢賢治の「雨にも負けず」の詩のことを、息子から紹介されて気に入ったのだ。鶴子が「銀河鉄道の夜」を読んでいるのは、必ずわけが…
片山は1階に降りると、ビル続きの倉庫に入った。倉庫では鶴子が用具類の整理をしていた。鶴子は良子の様子を聞いてくる。数か月前に体調を崩し1週間ほど休んだのだという。元気そうな鶴子も料亭の女将となると何かと大変なんだと片山は思う。そんなことを…
片山は「鈴音」の4階「なでしこ」で良子に業務連絡表を渡した。いつも仕事が終わり次第、良子にサインしてもらうのだ。この部屋は主に良子が仕事をする料亭の事務所になっていた。良子の座る机にはパソコンがおかれ、周りには本が数冊、並べられている。そ…
鶴子は清掃から休憩所のある倉庫に戻ると、片山に「鈴音」三階の「もみじの部屋」前の洗面が詰まりかけていることを告げた。洗面の詰まりなどすぐに改善するのだけど、通常の仕事では、あまり発生しない仕事が入った場合、片山はジョークを言って自分を奮起…
片山は料亭に外に出ると植栽の水撒きを始めた。カエデの木は夏でも緑の葉を青々とつけている。長いホースの先を全開にして勢いよく水を撒く。暑い空気が一瞬、涼しい風に変わる。そういえば、人間はこの水がなければ生きていけない。日本は四方を海水に囲ま…
片山は「鈴音」の一階に戻ると、いつものように大きな花瓶の花に気づいた。この花瓶に入れられたバラやヒマワリなどの花や、ビルの植栽が自分に話しかけていることを感じることがあるのだ。同様に片山は元気になるリンゴが好きで毎日、食べるが、きっかけは…
片山二郎は「鈴音」の洗面の清掃を終えると料亭の外に出た。異常な暑さが襲う。最高気温が35度と発表される日が続く毎日に、重い疲労を感じる。常日頃から毎日の肉体労働生活をトレーニングと考えている片山は、こんな時にアメリカのカリフォリニアで開催さ…
片山二郎は「鈴音」の洗面の清掃を終えると、一階のお客の予約状況が記してあるボードをタオルで吹き始めた。そこに女将の武田良子が出勤してきた。Vネックの深緑色のTシャツに白いパンツ、カーキ色のショルダーバッグというラフな格好だ。いつも通りに挨拶…
片山二郎は鶴子との世間話を終えると「鈴音」のエレベーターを押し4階に上がる。ここで洗面所の清掃をするのだ。仕事は簡単だから誰でもできる。そんな誰でもできる仕事で片山は生活しているのだ。時折、疲労からむなしくなることもある。そんな時にふと思…
片山二郎が「鈴音」の給湯室の清掃を始めようと、物置き場から上の階に上がろうとした時、トイレを清掃する吉見鶴子が入ってきた。鶴子は息子と娘を持つシングルマザーだ。今年で65歳になる。新潟出身だが大阪に住んでいたことがあり、会話はほとんど関西弁…
片山二郎は料亭「鈴音」で先輩の鈴木平を待った。平はパソコン関係の会社を2年前にリストラになってから清掃の仕事を始めた。話好きの平はさっそく、昨日のボクシング世界戦のことを話ひ出す。平はいつも話をしだす。話し出すと止まらない。そんな平と話し…
片山二郎は早朝のキタキツネビルでの仕事を終えると、次の仕事場である下町の高級料亭「鈴音」に向かった。下町にある料亭は4階建ての近代的なビルで、ジーンズ姿で通う女将が仕切る。ここで片山は昼過ぎまで清掃の仕事に就いている。建物は近代的だが、店…
都内で早朝から仕事に就く片山二郎の平日の朝は早い。午前3時には起床し4時には自宅を出る。帰宅は午後8時30分だから、平日はほとんど家にはいない。都内のキタキツネビルで仕事を終えると10時からは現代的な作りの料亭で清掃の仕事に就く。今年も暑くな…