Novel life~musashimankun’s blog~

漫画「きっと、いいことあるさ~君が住む街で~」を週刊で連載しています。

Novel「闇が滲む朝に 第★章1回『踏まれても踏まれても、道のように平然と』」

 都内で早朝から仕事に就く片山二郎の平日の朝は早い。午前3時には起床し4時には自宅を出る。帰宅は午後8時30分だから、平日はほとんど家にはいない。都内のキタキツネビルで仕事を終えると10時からは現代的な作りの料亭で清掃の仕事に就く。今年も暑くなり雨の日が多くなった。どしゃぶりの雨の中で片山はふとため息をついた。
 
 

スコールが自分を立たせる

 急に風が吹き始める。都内のキタキツネビルで早朝の仕事を終えた片山二郎の頬に雨が当たる。朝5時半から3時間、ひたすら動き回った直後の疲労で雨も、いつも以上に重く感じる。今年も暑くなり始めた。もう仕事では常に汗を拭かなければいけない。タオルが手放せない。
 
 ふと昨年のことが脳裏に浮かぶ。
 雨はやむことなく地上に水しぶきを打ち続けている。もう何日めだろうか。梅雨の雨というよりスコールに近い。この一か月で雨が降らなかったのはたった二日間だけだ。一日で一か月分の降水量という日も珍しくない。昨日、都心の近くで道のスロープに入った車が水没し運転していた女性が意識不明の重体となった。
 
 太陽光を受けないと人は暗鬱な気分になるという。片山もひたすら降り続ける雨にうんざりしていた。今年も雨は多くなるのだろうか。ふと、ため息を漏らした。
 
 片山の朝は早い。午前四時には家を出るが、明け方は特に雨が多い。明け方だけでなく夜に雨は降りやすいと感じていたが、今はそのサイクルは既に崩れている。午後三時過ぎの移動中にも雨は激しく片山の顔を打つ。次の清掃の現場へ自転車で移動せざるを得ない身分には本当に辛い仕打ちの雨となる。この日も都心の●●●では雨が降り続いていた。

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数分間、眠れば体力は回復する 
 都心での長靴を履いた歩行にも慣れた。長靴も足の疲労度の少ない物を買った。ヘルメットも自宅に置いてある。そう、自分が住んでいる日本はいつ、どこで地震が発生してもおかしくない。自分はこのまま大きな地震に遭遇することなく一生を終えることができるだろうか。きっと、誰もが思うことだ。
 
 片山は長い坂道を下り、駅をすり抜けそば屋の角を右に折れた。そのままオフィスビルの入り口を通り過ぎり地下に入る。一つ目のドアを開け電気をつけると左に曲がり二つ目のドアを開ける。そのまま更衣室に入ると、額の汗を拭いた。
 
 同じ●●●●のキタキツネビルで早朝五時三十分から働く片山だが、夏場は早朝とはいえクーラーの効いていない仕事場では、ほんの十分も身体を動かせば、シャツが汗だくになってしまう。午前十時からの仕事はオフィスビルと高級料亭での仕事だから、人と接触する機会も多い。
 
 汗の臭いは厳禁だ。自分の気分を一新させて取り組む意味も込めて制汗剤で汗を拭き取り、肌着も新しいシャツに着替える。着替えが終わると一瞬、眠気が襲う。無理はせずにロッカーの片隅の椅子に寄りかかるようにしてそのまま五分は目を閉じる。数分、目を閉じて脳を休めるだけでも身体は回復する。
 

踏まれても踏まれても道のように

 とにかく睡眠時間五時間の片桐は時間があれば目を閉じて脳を休める。それが体力回復につながるのだ。そして深呼吸して腕時計の針が午前九時三十分を過ぎたのを確かめるとゆっくりと起き上がった。
 
 更衣室を出て白いタオル一本に加え青いタオルをビニールバックに納める。現地に清掃用具は置いてある。この現場でもトイレ清掃は免れた。会社によっては男性もトイレ清掃を業務としている所はある。片山もトイレ清掃の方法は教えられたが、実際に担当にはなっていない。女性が担当しているのだ。
 
 本当にトイレ清掃は大変だと思う。特に多くの人たちが使用するJRのトイレなどは、すぐに汚れてしまう。この仕事をはじめてから、いかに人間が汚すか・・・・ということを感じたものだ。小便器にガムを捨てる者、吐く者・・・。
 

 ああ・・・まったく、人は環境を汚さずにはいられない。本質は悪だと片山は、いどしゃぶりの雨の中で、しみじみ思う。そして、踏まれても踏まれても動じない、道のように生きたいと思うのだった。

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