Novel life~musashimankun’s blog~

漫画「きっと、いいことあるさ~君が住む街で~」を週刊で連載しています。

「闇が滲む朝に」🐑章 第7回 「中華屋の文平が宝くじを当てた理由」

昼飯は中華屋のぶんぺい
 しばらくして伸江に続き明子も控室も出た。高齢者施設「ラッキー園」の午前中の清掃の仕事はこれで一段落する。午前11時40分過ぎ、徹はクリーンモリカミのスタッフが常駐する控室を出ると、そのまま施設のエントランスへと向かった。
 
 午後からは徹がゴミの回収をする。回収を終えるとこれといった業務は終了する。大型のポリシャーがけやワックス業務などの定期清掃は数か月に数回、土日を使って専門のスタッフが行う。この日、徹は実務は行わないが手伝いをする。つまり、現在の徹の業務は清掃の中では初歩的なものになる。だから、ベテランの明子のチェックが入るのだ。仕事を始めて3か月程度だから仕方ない。
 
 徹は「ラッキー園」のエントランスを出ると歩いて5分ほど先の「中華・ぶんぺい」に向かった。昼食はここで中華か、コンビニで弁当を買って食べる。中華店のメニューはまあまあ、うまいといったところだが、何より店主の話が面白いから通い始めた。

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宝くじが当たった
 とにかく話す機会が以前の仕事とは格段に減ったから、ここで店主の飛田文平と話すのが気分転換になる。何よりも客だから、好きなことも言える。ただ、30人も入れば満員で決して広い店ではないから、早くいかなければ待たなくてはいけないことになる。昼の時間は付近の会社に勤務する人や、周辺の建設現場で働く人で混雑するのだ。
 
 徹はこの店に昼とたまに夕方に来るようになった。仕事を終えて30分もすれば、「中華・ぶんぺい」に「ラーメン」の赤に白地の、のれんがつけられる。帰宅する前にここで軽く飲んでいくのだ。酒はビールとチューハイ、焼酎くらいしか置いていないが、それで十分だった。いつも、ギョーザや麻婆豆腐、回鍋肉などをつまみに世間話をする。何よりも午後4時頃なら店はまだ空いている。
 
 徹が3か月前に「ラッキー園」に来てから、この店に通い始めたのは理由があった。
 文平の世間話を面白いと感じたのだ。文平は3年前に柴犬を飼いはじめたらしいが、その年の夏に買った宝くじで10万円が当たり、翌年から店の周りにマンションの建設現場が多く出き始めて、店に来る客が増えたという。ほんまかいな?と思うような、嘘のような本当の話をするのだ。

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