Novel life~musashimankun’s blog~

漫画「きっと、いいことあるさ~君が住む街で~」を週刊で連載しています。

「闇が滲む朝に」🐑 章 第9回「昼間からビール三昧の五十六の鋭い眼光にヒヤリ」

昼から生ビールを飲む顔の大きな男
 徹は文平の言う、たかど、という名前を聞いたことがなかった。
 「たかどさん・・・・ですか」
 「確か、『キタキツネビル』で働いているって言ってたな」
 顔の大きなベートベン似の男が言った。
 「『キタキツネビル』ですか・・・・」
 
 クリーンモリカミは●●市内では「ラッキー園」のほかに「キタキツネビル」や「エゾリスビル」で清掃業務を行っているが、徹は「ラッキー園」でしか仕事をしていないから、「たかど」という人物のことも顔も知らないのだ。
 
 アルバイトのくみ子がベートベン似の高戸五十六に焼き肉定食を運んできた。
「ありがちょう、これおかわり」
 五十六はくみ子に空になったビールジョッキグラスを渡す。
 昼からビールか・・・・いいなあと徹は思う。
 
「生、おかわりです」
 くみ子がグラスをカウンターの上に置いた。
「ちゃんぽん一つ、お願いします」
 徹がくみ子に注文した。
 
「中華屋・ぶんぺい」の戸がガラガラと音を立てて開いた。3人連れの作業着を着た男たちが入ってきた。
「いらっしゃいませ」
 くみ子が大きな声を出した。

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いそろく・・・・さんですか

「五十六さん、すみません。森ちゃんと一緒にいいですか」
 カウンターの奥から文平が徹に「悪い」と軽く頭を下げながら、席を高戸の方に変わるように合図した。
 「弟さんとは仕事場が違うんでまだ、お会いしたことないんですが」
 徹は頭を下げながら高戸の相席に座った。
  

「そうか・・・・」
 高戸はグビグビとビールを飲みながら頷いた。
「いいですね。ビール」
 徹が水を口にした。
「飲むか」
 焼き肉を食べながら、高戸が顔を徹の方に向ける。
「いえ、まだ仕事中なんで・・・・」
 徹は五十六の眼光の鋭さに、刀で刺されたような気がしたが、顔が大きくて次の瞬間、笑いそうになった。
 
「そんなの、関係ねえだろ」
 高戸がグビッとビールを飲む。
「いえ、顔に出ちゃうんで」
 徹が右手を軽く左右に振った。やがて、くみ子がチャンポン麺を運んできた。
「お待たせしました」
 かすかにくみ子の手が徹の右手に触れた。
 
「い、いそろくさん・・・ですか」
 徹はどこかで聞いたことのある名前だと思う。そう、あの山本五十六と同じ名前だ。

 徹が胡椒をチャンポン麺にふりかけた。
「ああ、五十六と書く。弟は七八、ななはちだ」
「と、徹です。森木徹といいます」
 徹は思わず笑いかけたが、ふうと息を吹きかけながら麺をゆっくりとすする。熱いのだ。
「ここはよく来るんですか」
「どうかな、用事があると結構、来たりするかなあ」
 五十六が何かを思い出すように深呼吸した。
 
「いらっしゃいませ」
「いらっやーい」
 くみ子に続きカウンターの奥からも文平の声が店内に響く。
 いつの間にか「中華屋・ぶんぺい」は満席になった。

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