Novel life~musashimankun’s blog~

漫画「きっと、いいことあるさ~君が住む街で~」を週刊で連載しています。

Novel「闇が滲む朝に」第☆章14回「何があっても挫けない、諦めない、思いが現実を作る」

 土曜日の午後2時、片山は「鈴音」に着いた。ビルの中では昼から自動車会社の宴会が開催されていた。今日はもう一件、予約が入っているという。まだ、宴会が終了するまでには時間がある。片山は鶴子と倉庫で立ち話を始めた。九州には台風が上陸し、やがて関東地区にも上陸する恐れがあるらしい。

 

夏の盛りなのに台風が心配

  土曜の日、時計が午後3時になりかけた頃、片山二郎は人通りの少ない◎◎ 駅からの通りを抜け「鈴音」ビルの玄関先に着いた。入口付近の看板の予約看板には2階「ひまわり」の部屋に◎◎自動車会社様、3階「かえで」に柴田様と記入されている。
 
 自動車会社とは別にもう一人客が入っていたのだ。いつも通り入口から外側の倉庫に向かうと、表通りを鶴子が歩いてくるのに気づいた。倉庫は自動車倉庫だから、外に出入りできるように格子状のシャッターが下ろされている。
 
「お疲れさん」
 ビルの内側から倉庫に鶴子が入ってきた。
「お疲れさまです」
「どう、そろそろ終わりそうかい」
 鶴子が聞く。
  
「自分も今、到着したばかりせすから。もう一軒、お客がいるんですね」
「そう。3階の『かえで』に個人客がくるらしいよ。このお客は4時ごろに入るんじゃないかい」
「そうですか・・・」
 片山は少し帰宅時間が遅れることを億劫に感じた。
「こちらは帰宅が遅くなるらしいから。2階の大広間とは違って、小さな個室だから月曜でいいと思うよ。客数は3人とか。家族みたいだよ」
 くふふと鶴子が笑った。
  
「2階の部屋と洗面、トイレあたりを清掃すれば、あとはいい筈よ…。しかし、台風が心配やなあ」
 鶴子が思い出したように言う。
「明日、日曜の夜あたりに関東地区に上陸するらしいですね。大丈夫ですかね」
「いつも、東京はあまり被害はない方やけど」
  
「でも、今回はわかなんいですよ。伊勢湾台風なんかもあったり、過去にはいろいろあったみたいですし。何しろ関東大震災が発生した場所ですから。もう100年ですよ。何もないなんてことは考えられないですね」
「そうかな、いややなあ」
「ま、用心にこしたことはないですね」
「・・・・・・」
 土曜日とあってか鶴子の口数も少ない。
  

台風被害の辛さにも諦めない気持ちを引き寄せて

 

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「引き寄せってあるみたいですけど」

「なに・・・引き寄せって」
 鶴子が片山に目を向ける。
「自分の思いが、ある現実を引き寄せて、現実を作り出したりするっていう・・・・」

「ほんまかいな。そんなんあるん?」
  
「幸福も不幸も自分が作り出しているっていうこととか・・・」
「なんか、迷信みたいやなあ。女の子が好きそうやけど、占いぽいわ」
「自分の思いって大事なんですよ」
「それは分かるけどな。そりゃそうや」
  
「だから用心はしなきゃいけないけど。恐れてもいけないというか。不安が不安の現実を作るっていうか」
「でも、九州は台風で大雨が続いてるけど、災害でなあ、大変な思いをした人たちにはそんなことは言えんわ。気の毒で。このくそ暑いのに停電やで、まさかの」
「本当に大変、しんどいですね。車も家も水に沈むんですから。生きるか死ぬかですよ。疲れて気力が萎えて、生きていくのが嫌になる人もいると思いますよ。 自衛隊の人たちも住人も戦場にいるようなもんです。それはもちろん大変です。辛いですよ。でも挫けないでほしいですね。辛いだろうけど。何があっても諦めないでいてほしいです・・・諦めない強い思いっていうか、そういう気持ちを持って欲しいですよ」
 いつのまにか入口付近で人の気配がしだした。会が終了したのだ。
 片山の腕時計は午後3時半を指していた。

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