Novel life~musashimankun’s blog~

漫画「きっと、いいことあるさ~君が住む街で~」を週刊で連載しています。

「闇が滲む朝に」🐑章 第2回「AIの庭掃除ロボットができたら、ますます仕事がなくなるだろうなあ」

やっぱ、人の命を奪う自然は恐い

 キーンと冷気が張る静かな金曜の午前9時過ぎ、ピピピッ、ピピピッ、ピピピ・・・銀杏の木々が青空にそびえ立つ園内に、ツグミのさえずりだけが森木徹の耳に響く。徹の3メートル程先に立つ柿の枝々で2羽のツグミが行き交う。園内にはもっと来ている筈だ。徹はあたりを見渡すが、今は2羽しか見当たらない。あの多くの命を奪った台風が嘘のように晴天の空がまぶしい。
 
 自然というのは怖いものだ。人の命を平気で奪っていく。

 今後、どんなに人間が素晴らしい物を開発し続けても、宇宙に誰もが行ける時代が来ても、一方では環境を破壊し続けるという行為をやめることはできない。生き残るためだ。こんなに食料が豊富で大量の廃棄物が出る国でも、ぼおおっとしていると、他国から侵入され、他の仕事や人間から追い出され、いつの間にか隅においやられる。
 
 生き残るためだ。

 地震、台風、火災、温暖化による災害の巨大化・・・それが自然からの警告だと分かっていても、人間は弱い。自分本位にしか生きられないのだ。ほら徹の住む公団のすぐ近くの緑地だって、いつのまにか木々が削り取られ、土地が耕され、数千、数万の鉄柱が埋め込まれ、コンクリートが流され、巨大な建築物が出現しようとしている。
 
 少子化だ、少子化だといいながらも、徹の住む周りには、緑地がどんどん破壊され、この10年程でマンションが4棟も完成した。駅前の超高層マンションの付近はいつも強風が吹き、人が倒れたりする。郵便屋さんは、バイクごと倒れ、あたりにはがきや手紙が舞い続けた。それでも何もなかったかのように、平然と高層マンションは立ち続けている。物が飛んできてきっと、いつかは怪我人が出ることは通行人なら誰もが予想できることだ。
 

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たまに肉体を脱ぎたくなる

 太陽が輝き、空に雲があり、海があり、雨が降り、水ができる・・・そこにあるのは自然への畏怖の念でしかない。
 この青い空に輝く太陽や空気や海や緑の山々がなきゃ生きていけないのに。

 青い空の下で、ざっ、ざっ、ざっ・・・・そんなことを考えながら徹は銀杏の葉を箒で集める。身体をひたすら動かし続ける仕事を始めてから、一人で考え事をする機会が増えたのだ。
 「ふぅーっ、疲れた・・・」
 徹が独り言を言う。
 庭掃除を始めてから30分が過ぎた。朝の6時から高齢者施設の「ラッキー園」内でゴミの回収や掃除機がけをし終わった後だから、仕事を始めてからは3時間以上が過ぎているのだ。
 
 肉体労働はとにかく運動を停止し休まなければ疲労は回復しない。そこが頭脳労働の仕事とは決定的に違うところだ。最近になって肉体労働を始めた徹はすぐに休みたくなる。先輩の明子に怒られるのが嫌だから、徹がまだ、やれる、まだ、やれる、と自分を鼓舞し続けても身体は正直だ。慣れていない労働を受け入れようとしない。休まなきゃと脳が警告を出し、嫌だと意識し、やがて身体が止まる。この仕事を始めて、そんな感覚の連続なのだ。だから、たまに肉体を脱ぎたくなる。
 
AI庭そうじロボットができたら

 AIでそうじロボットを作って庭掃除ができるようになればいいのにと思う。これが実現したら、ますます徹の仕事はなくなって、途方に暮れるばかりなのに。動作が体たらくだから、先輩の明子に「もっと、てきぱきやりなさい!!」と怒られる。
 そんな会話を3か間、続けてきた。
 
 『バーロー、俺はこう見えてもメーカーで営業をやってきたんだ、なんで、この年になって、おめぇみたいな、ばあさんに説教されなきゃなんないんだ』
 と徹はその都度、思う。
 『もう、やめてやるっ!こんな、あほな仕事・・・』
 何度、そう思っただろうか。

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