Novel「闇が滲む朝に」第☆章11回「花言葉は幸福と、人間技を超えたプロレスの力」
片山は「鈴音」の4階「なでしこ」で良子に業務連絡表を渡した。いつも仕事が終わり次第、良子にサインしてもらうのだ。この部屋は主に良子が仕事をする料亭の事務所になっていた。良子の座る机にはパソコンがおかれ、周りには本が数冊、並べられている。そういえば、片山は以前に平から、良子が百貨店で広報の仕事に就いていたことを聞いていた。
とにかくどんな仕事でも好きになる
「お疲れ様です。明日、悪いけどお願いします。土曜だから、本当はお休みでしょう?」
良子が業務連絡表にサインし片山に渡した。
「いえ、土曜はいつも仕事の日が多いですから」
片山は連絡表のサインを確認しながら答える。
「そうなの?でもここはお休みですよね」
「ええ。ここには来ませんが。だいたい午前中は地元で仕事しています」
片山は土曜に地元のツキノワグマビルでの仕事になる。もともと、地元で夕方に仕事ができる場所を探していたのがハイクリーンで仕事を始めたきっかけだった。
片山の住む地域から都内に出るまでには、早くても電車で1時間30分はかかってしまう。都内で土曜日に仕事をしていては、交通時間に要する時間を含めると、ほとんど休めなくなってしまうのだ。
その点で地元であれば交通時間に使う時間帯でほぼ仕事は終了する。つまり、午前中には家に帰宅できることになる。長年、週休2日で生活してきた習慣は、この新しい生活スタイルに何とか慣れることができた。午前中の4時間程度なら運動したような感覚なのだ。
片山は基本的には、現在の仕事は運動だと考えている。少しハードなトレーニングをしているという感覚・・・・このことは何度か書いているから、も、いいか。
片山はこの仕事に就くまで自分の好きなことしかやってこなかった。とにかく、自分の好きなことであれば、どんな状況になっても継続できるだろうと考えていたのだ。
しかし、それは甘かった…砂糖のように脆くも夢は景気悪化とともに崩れてしまったのだ。きっと、今までの悪さに罰が下されたんだ。とほほ、と片山は思ったりもした。
人間技を超えたプロレスにアホな自分を重ねてみる
で、今の仕事でもとにかくメリット、利点だけを考えるようにしてきた。何とか仕事を好きになる方法を探してきたのだ。それが、仕事を肉体トレーニングと考える発想だった・・・というわけ。
だから仕事でへとへとになって辛くなれば、プロレスラーの飯伏幸太やオスプレイの凄いファイトを思い出す。あんな勇気のあるレスラーをそう見たことはない。
一歩、間違ったら死ぬか、半身不随になりかねない技を連発するのだ。あんなこと人間ができるの?っていう動きを見せる。それは格闘技のマジさも越えているような気がするのだ。
庭に植えられた花々の意味
「それじゃ、なおさら悪いわね」
良子が一瞬、パソコンの画面に目を戻した。
「いえ、大丈夫ですよ。明日は地元の仕事がないから」
「休めたのに・・・・申し訳ないわね」
「気にしないでください。いろいろお忙しそうですね」
片山がパソコン画面に目を向ける良子に聞いた。
「そう、なんでもやらなきゃいけないのよ。ホームページの更新もやるし・・・・・」
「ホームページ・・・ですか」
「そう。新しいお客さんはもちろんだけど、一度、利用していただいたお客さんに何度も来ていただけるようにしなきゃね」
そういえば以前、平から女将は元百貨店の広報の仕事をしていたことを聞いた。確か誰もが知っている大手だ。
「片山さん、ブルーデイジーってご存じ?」
良子がふと目を上げた。
「ブルー・・・・?いや」
片山が意外な良子の質問に驚いた。
「花言葉は幸福。協力。ここの庭にも咲くわよ。ホームページに花言葉を掲載しているのよ。お疲れさま。明日、よろしくお願いします」
再び、良子がパソコンに目を向けた。