Novel life~musashimankun’s blog~

漫画「きっと、いいことあるさ~君が住む街で~」を週刊で連載しています。

「闇が滲む朝に」🐑 章 第8回「ジャジャジャジャーン、ベートベン男と会った」

中華屋で会った顔が大きい男
 徹は「ラッキー園」を出ると道の向かい側の「中華屋・ぶんぺい」の暖簾が出ているのを確認した。信号が青に変わったのを確認すると、急ぎ足で歩道を渡る。

「こんちわ」
 「中華屋・ぶんぺい」の戸を開ける。ガラガラと音を立てて開いた。まだ中には客は1人しかいない。午前11時40分過ぎ、これがあと数十分もすればいつの間にか満員になる。ほんの20分の差で待たなければいけないか待たなくてすむか。
 
「どうも、いらっしゃい」
 いつもの文平の声が店の奥から聞こえた。昼間は厨房の中に2人、客対応に1人の3人で対応する。厨房の中では文平の妻・ゆう子、接客はアルバイトの井戸くみ子が手伝っている。くみ子はまだ30歳になったばかりで、店の近くのマンションに住む主婦だ。
 
 もちろん、昼は「中華屋・ぶんぺい」にとって忙しい時間帯だから、いつもこの時間帯はほとんど徹が文平と話すことはない。徹も店に置いてある新聞かテレビを見て過ごすことが多いのだ。
 
 しかし、この日は違った。文平の方から徹に声をかけてきた。
「森ちゃん、奥に座ってる人、森ちゃんの会社で働いている人のお兄さんだよ」
「クリーンモリカミで、ですか?」
 徹は少し驚いた表情をしながら奥の厨房近くの席に座っている男の方を見た。
 
 大柄の男は徹に気が付くと笑顔を見せた。大柄というか顔が大きく骨太といった方が正確かも知れない。
「高戸さん、森ちゃんとこで働いてるんだって」
 文平が奥から大きな声で言った。


 

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新しい日本人が誕生する
「え、?」
 徹は目の前の男を改めて見た。誰かに似ている。そう、ジャジャジャジャーン!のベートベンだ。指揮者のベートーベンを東洋人にしたような風貌の男が目の前にいる。瞬間、徹はそう思った。
「弟さん、働いているんでしょう」
 文平が奥からカウンターまで出てきて男に声をかけた。

「確か、今は清掃の仕事してるらしい」
 男がそれまで目を通していたスポーツ新聞を傍に置いた。
「たかど・・・・さん?ですか」
 徹が聞いたことのない名前だった。しかし、世の中には自分と似た人が3人いるというが、目の前の男は本当に、あの世界的にも有名な指揮者のベートーベンに似ている。
 
 そういえば、つい先日、徹はキューバの革命家であるチェ・ゲバラにそっくりの男が目の前を通り過ぎていくのを見た。俺は寝ぼけているのか。ここは日本だからまさか、と徹は思ったが、その男も風貌はゲバラ、そのものだった。
 
 しかし、考えてみると、今の日本には海外から次々と労働者が入国しては去っていく。旅行者も多い。徹が営業の仕事をしていた頃には、電車の中では中国語や、あまり聞いたことのない言語を話すアジア人も多く見かけたりした。毎日、外人と会わない日はなかった。
 このままいくと従来のいわゆる純粋な日本人は減り、新たな日本人が増えていくんだろうなと徹は思ったりするのだ。

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