Novel life~musashimankun’s blog~

漫画「きっと、いいことあるさ~君が住む街で~」を週刊で連載しています。

Novel「闇が滲む朝に」第☆章12回「くふふと笑いながら銀河を旅した日」


 片山は1階に降りると、ビル続きの倉庫に入った。倉庫では鶴子が用具類の整理をしていた。鶴子は良子の様子を聞いてくる。数か月前に体調を崩し1週間ほど休んだのだという。元気そうな鶴子も料亭の女将となると何かと大変なんだと片山は思う。そんなことを考えていると、鶴子がふと「最近、『銀河鉄道の夜』を読んでいる」とこぼした。
 

ビール飲めるかもよ、くふふ

  片山は「なでしこ」で良子から業務連絡表を受け取るとエレベーターに乗り1階に降りた。倉庫に入ると鶴子が用具類を整理していた。
「お疲れさん」
 片山に気づいた鶴子が声をかけた。
「お疲れさまです」
「どうだった。なんか言われたかい?」
 鶴子が気になる表情を見せた。

 

「いや、特に。何か用事ありましたか?」
 片山がペットボトルのお茶を飲む。
「明日のことさ。私も来るから。昼から宴会やるんやろ。自分は2時ごろに来るわ」
「どこのお客さんなんですか」
「自動車関連やて、平さんが言ってたよ」
「自動車関連・・・・・ですか」
「ここはいろんなお客さんがくるから。予約の看板を見てもわかると思うけど」
「ここは銀行が持ち主やから。お客の幅も広いわけ」
 鶴子が少し知ったかぶりをする。

 

「ビールも出すらしいから」
「出すでしょうね。ビールは」
 当然でしょうと片山は思う。
「片山君も飲めるんじゃないの」
 鶴子がくふふと笑う。
「飲めないでしょう・・・・まさか」
 片山は少し呆れた表情で答えた。

 

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「調子悪そうじゃなかったかい。女将さん」
 鶴子が話を変えた。
「どうでしょう。何か忙しそうでしたよ。ホームページ更新とかで」
「2か月ほど前に1週間、休んだことがあるんよ。女将さん」
「体調を悪くして・・・ですか」
「風邪をこじらせたらしいわ」

 

銀河を旅した日

「大変ですね」
「年頃やからなあ」
「年頃・・・・?ですか」
「ま、男には分からんわ」
 鶴子がまた、くふふと笑った。

 

「最近、『銀河鉄道の夜』読んでるわ」
 思い出したように鶴子が言った。
「『銀河鉄道の夜』ですか・・・・。あの有名な」
「せや、あの人の本や。自分が読むんは時代小説が多いけど。たまにはなあ」
「面白いですか」
「そうやなあ・・・・・。何か夜空を旅してるというかなあ。最近、予想もできひん、いろんなことがおこるやろ、台風で家の屋根が飛んだり、停電になったりなあ。殺人事件も増えてるし。なんかなあ・・・・・今の日本んて。あ、もうこんな時間や。そろそろいかなあかんわ」
 鶴子がくふふと笑うと、思い出したように腕時計を見た。

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