「闇が滲む朝に」🐏章 第19回「二人の逃避行 ちみの瞳に恋してるってか!?」
秘めた二人の逃避行?
「この前に外出したのはいつだったかねえ。夏ごろだったかなあ」
はなえがタクシーの窓の外を眺める。
「8月頃・・・・?」
「そうだね。確か・・・・」
タクシーが信号待ちで停車した。
「確か息子夫婦と食事したんだね・・・・」
再び、タクシーが動き出す。
「息子さんたち、たまに来るの?」
徹が聞いた。
「そう。たまにね・・・・」
やがてタクシーが「キツネ駅」近くの繁華街に入った。繁華街の街燈で一瞬、車内が明るくなった。
「その辺で止めてください」
「キツネ駅」に通じるエスカレーターの前でタクシーが止まった。徹が料金を確認すると運転手に千円札を渡した。
「はい、710円ですね」
運転手は言いながら財布の中から小銭を集めておつりを返した。
「慌てなくていいから」
徹はタクシーを降りるはなえに声をかけた。
「よっこらしょ」
「忘れ物はないかい」
徹が再度、タクシーの後部座席を確認する。
「こんな時間に外に出たことないから」
はなえが深呼吸した。
「寒くない?ゆっくりね。二人で逃避行してるわけじゃないから」
徹が背の低いさなえの背中を押した。
土曜日の午前6時の時間帯は、駅に続くエスカレーターに乗る人もいない。
タクシーはキツネ駅に着いた
「キツネ駅」はエスカレーターで上がったところから中央改札に続いている。広い駅前スペースには、朝まで飲んでいたらしい二十代の男女がたむろしていた。平日にはギターやピアノ片手に歌ったり、袈裟を着て読経を唱えたり、このスペースではさまざまな人が自分イベントを行うのだ。
「まだ、早いからコーヒーでも飲んでいこうか」
徹は駅中のコーヒーショップが開いていることを確認した。
自動券売機で二人分の切符を購入した徹は先に、はなえに改札を通るように指示する。
「出てきた切符を取って」
はなえは慣れない手つきで自動改札の切符を手にした。
ちみの瞳に恋してる年じゃないけど
「へ~早くから店が開いているだね」
はなえが驚いたような表情を見せた。
「最近は、どこでもコーヒーショップは朝早くからやっているよ」
二人はそのまま店内に入った。
店内には爽やかな軽音楽が流れている。どこかで聞いたことのある曲・・・確か「ちみの瞳に恋してるってか!?」だ。なつかしいけど、いつ聞いても新鮮な気持ちになる。不思議な曲だ。そう、コーヒーの香りもいつも新鮮な香りがする。
「コーヒーでいいかい」
徹がメニューを眺めながら聞く。
「おまかせします」
はなえが徹の真似をするようにメニューを眺めた。