「闇が滲む朝に」🐑章 第30回「ヒゲさんがプロレスラー引退を決意した理由」
かつてプロレスラーだった男
徹の目の前には1枚の写真が飾られている。それはリング上に立つ2人のレスラーの姿だった。1人は天源一郎、そして、もう1人はヒゲさんだ。今の風貌とは若いが確かにヒゲさんだと分かる。
「ヒゲさん・・・・レスラーだったのか」
徹はソファーのテーブルの方に降り返った。
「そうなの・・・そういわれてみれば、何となく分かるわ」
はなえがトロフィーが並べてある応接間の周りを何となく見渡した。
「こんなに沢山のトロフィー・・・・凄いわね。ヒゲさん」
はなえが納得するように首を縦に振った。
「おまたせしました」
ヒゲさんの奥さんがコーヒーを運んできた。
「奥さん、お気を遣わずに。お名前は・・・」
はなえが聞いた。
「あら、ごめんなさい。申し遅れました。京子です」
京子がはなえと徹の前に丁寧にコーヒーをゆっくりとテーブルの上に置いた。
学生時代はレスリング部に
「すみません、今日は夜に『もとずろう温泉』に出かけるから、今、ジョイを連れて散歩に出ました」
京子はヒゲさんが散歩に出かけたことを告げた。
「せっかくお誘いして、すみません」
「いえいえ、大丈夫ですよ。ヒゲさんと会わなきゃ『竜乃湖』にも行けなかったですから」
徹がコーヒーに砂糖を入れた。
「ヒゲさん、プロレスラー・・・だったんですか」
徹がコーヒーをゆっくりと飲んだ。
「ええ。もう引退しましたので」
「でもトロフィーの数が凄いですね」
今度は徹が感心しながら首を縦に振った。
「トロフィーですか・・・学生時代の物がほとんどですね。大学時代にレスリングをやっていて、その時の・・・」
「大学のレスリングからプロレスに進んだのですか」
徹が再度、写真を眺める。
ヒゲさんが引退を決意した理由
「ええ。期待されてプロレスラーになったんですが」
京子が控えめに答えた。
「いつのころからか、心臓が悪くなってしまいまして」
「心臓ですか」
「学生時代から無理をしていたのだと思いますが。プロになって10年が経過した頃から、体調不良が続きまして」
ヒゲさんは心臓内で刺激伝導系の障害が発生し、心房から心室に刺激が伝わらない房室ブロックという病気になり、重病化する前に大事をとり引退を決意したのだという。
「現役の頃に出会った頃から、本人はプロレスラーは命をかける仕事だと、よく話していました」
京子が控えめに話しを続けた。
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なお、「海に沈む空のように」告知のため、「闇が滲む朝に」「🐑章 二人の逃避行」第31回は15日のアップを予定しています。