「闇が滲む朝に」🐑 章 第26回「二人の逃避行 異常気象にやられねえよう、『竜乃湖』で拝むっけ」
黄色のランドクルーザーでやってきた
髭面男のヒゲさんから「竜之湖」に誘われた徹は、風呂から上がるとはなえにその旨を伝えた。ヒゲさんが自分の車で「もとずろう温泉」まで迎えに来てくれるという。
近くのうどん屋で昼飯をとった徹とはなえは、午後1時に温泉の前でヒゲさんが来るのを待った。
徹がはなえと立ち話をしていると、やがて約束の時間の5分前にヒゲさんの運転する車がやってきた。
黄色のランドクルーザーでヒゲさんらしい車だと徹は思った。「竜之湖」は温泉から徒歩で歩いても大人の足で20分程だというからそう遠くではないが、はなえのことを考えてヒゲさんが車で迎えにきてくれたのだ。外見はクマのような感じがする男だが、外見に似合わず気の利く男だと感心した。
「ま、見るだけでもいいから」
ヒゲさんは車を運転しながら言った。
「へええ、そんな所があるのかい」
後方座席に座ったはなえが、大きな声で言った。しばらく温泉で仮眠したことで、少し疲れた様子だったが元気を取り戻したのだ。
「ヒゲさんはこの近くに住んでいるんですか」
運転席の隣に座っている徹が聞いた。
畑でケール栽培やってるさ
「ああ、近くさ・・・すぐそこ」
ヒゲさんは運転席から右方向を指した。
「でも、朝から温泉に入れるっていいですね」
「そう。ずんいちろ社長がいいっていうから助かってるよ」
ヒゲさんは左をちらりと見てから、ハンドルを右方向に切った。
「ほんとはお客さんじゃなきゃ、いけねえんだけど」
ヒゲさんはそのままハンドルを戻してアクセルを踏み前進する。少し坂道が続く。周りはうっそうとした木々が棲息している。坂を上ると再び道は平たんになった。
「ヒゲさんはここで仕事しているの」
はなえが聞いた。
「そう。畑仕事だから。ケール栽培をやってるけ」
バックミラーを見ながらヒゲさんが答えた。
「畑仕事・・・・・いいねえ」
はなえがバックミラーに映るヒゲさんを見ながら言った。
「竜乃湖」に行って拝むっけ
「異常気象の影響はないんですか」
今度は徹が聞く。
「今の所は一応ねえけど。俺は山で畑やってっから。海の漁なんかはいろいろ影響が出てるみてえだ。これからは用心しねえとな」
「海は影響が出てるでしょうね」
「そう。だから俺らも気をつけねえと。『竜乃湖』に行って拝むっけ」
「はあ・・・・」
ヒゲさんの言葉に徹は驚いた。
「ほれ、着いた」
ヒゲさんが車を止めた。
うっそうとした林を抜けた後で目の前に広々とした湖が広がった。