Novel life~musashimankun’s blog~

漫画「きっと、いいことあるさ~君が住む街で~」を週刊で連載しています。

「闇が滲む朝に」🐑章第15回「家族の冬風には、冗談も笑っていられないなあ」

すれ違いの増えた家族
 徹が図書館を出る頃には午後4時を過ぎていた。そのまま、「ラッキー園」に戻り駐輪場のバイク置き場にいく。徹はいつも「ラッキー園」まで50㏄のバイクで通っているのだ。

 ヘルメットをかぶりながら、徹はついさっきに会った春香さんといい、「中華屋・ぶんぺい」で昼間からビールを飲んでいた五十六といい、清掃の仕事をし始めてから、自分は妙というか何か変な、今までに会ったことない人物に会うようになったことに気づいていた。
 
「無我・・・・か。んなこといってもなあ。自分は自分だし現実は現実だし」
 春香さんの言ったこといが、もう一歩、理解できないまま、徹はバイクのアクセルを踏んだ。ここから15分も行けば自分の住む住宅に着く。自宅に戻ってもまだ妻の多恵子も帰宅していない。
 
 そういえば、近くのアパートに住む和樹とは最近は会うこともほとんどなくなった。1週間に1度は実家に帰宅しているらしいが、多恵子と会ってそのまま自分のアパートに戻ってしまうのだ。何となく父親と会うことを避けているようにも徹には感じられた。
 
よそよそしい妻と息子
 もっとも、今は会わせる顔がないと感じているのは徹の方だ。そういえば、多恵子との会話も少なくなっている。多恵子は平日はスーパー「モリダクサン」でパートをしているが、徹が今まで勤務していた会社を辞めてからは、土曜日も仕事をし始めたのだ。金銭的に余裕がないが理由だった。徹はそんな多恵子の言葉に、しゅんとうなだれるしかなかった。
 
 徹が住む住宅 から自転車で10分ほど行った所にある店だから、近所の人たちもよく買い物にいく。今までは帰宅が遅くあまり見かけることのなかった公団に住む人たちとも、会うようになっていた。

 それまでは午後8時頃に帰宅していたから、認知症気味の近くに住むおばあちゃんに、ただ、ただ睨まれた時なんかは、あんた、誰?なんで夕方のこんな時間にうろついてるのって、思われてるんじゃないかなんて、自己嫌悪に陥ることもあった。徹は思わず、ちゃんと仕事してるわいっていいかけたけど、なぜか言えなかった。
 
「無我・・・無我・・・・」ふと春香さんの言葉が脳裏に浮かぶ。
 たまには、多恵子が仕事をしているスーパーにでも出かけてみようか。徹はふと公団のバイク置き場で思った。「モリダクサン」までは歩いて行ってもさほど時間はかからない。
 

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モウタクサンと言ってみるも
 多恵子は通常は午後5時までの勤務だが最近は、残業で帰宅が遅くなることが増えていた。自分が行ったら驚くだろうなあ、そんなことを考えながら徹はスーパー「モリダクサン」に向かった。
 
 「モリダクサン」は徹の住む地域では3店舗を展開している。本社は●●市内で●●地区中心に展開している中堅のスーパーだ。堅実経営で業績も悪くなく、客数も減ることなくパートの仕事は忙しい。暇になりつつあった徹とは対称的に、多恵子の生活は忙しくなっている。二人にはすれ違いが増えている。徹は最近、家庭でも冬の風が吹き始めていると感じていた。
 
 以前に「モリダクサン」の仕事は「モウタクサン」と夕飯の時に徹は多恵子に言ったが、台所で洗い物をしながら多恵子は聞いていないふりをしていた。やはり、徹が長年に勤めてきた会社を辞めたことは、いろんなところで影響が出始めているのだ。

 感情的なもつれからくる、冷たい亀裂は家族間ではとても分かりやすく出る。
「モリダクサン」でなく「モリタクワン」・・・・何、それ。このレベルじゃ、家では笑ってもらえないなあ。

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