Novel life~musashimankun’s blog~

漫画「きっと、いいことあるさ~君が住む街で~」を週刊で連載しています。

「闇が滲む朝に」🐑 章 第24回「二人の逃避行 近くに竜が住んでた湖があっから」

早一番のお客さんですけ? 徹は「もとずろう温泉旅館」のお湯に浸かりながら、大きく深呼吸した。どこからか静かにお湯が流れる音が聞こえてくる。「朝早一番のお客さんですけ」 後方から野太い声が聞こえてくる。 「お客さんけ?」 徹は二度目の問いかけに…

「闇が滲む朝に」🐑 章 第23回「二人の逃避行 お湯に浸かり自分が自分でないような」

カーテンを開けると木々一色だった「温泉に入りたかったら入ってもいいけど、どうする?しばらく休む?」 徹は、「もとずろう温泉」の女将・いちこと社長のずんいちろに挨拶した後で、はなえに聞いた。「そうだね。午前中はね」 はなえはゆっくりと返事した…

「闇が滲む朝に」🐑章 第22回「二人の逃避行 温泉だけでなく、のど自慢にも出てみっか」

もとずろう温泉に到着 徹たちはタクシーを降りると、どこからか川のせせらぎが聞こえてきた。新鮮な空気に凛と身体が包まれた。はなえが気持ちよさそうに深呼吸した。 目の前に小さな温泉宿が建っている。古びた木造りの看板に「もとずろう温泉旅館」と大き…

「闇が滲む朝に」🐑章 第21回「二人の逃避行 行き先は、あの『もとずろう温泉』」

さあ着いたよ。尾花だよ コーヒーを飲み終わった後で徹とはなえはトイレに寄り、駅のホームで電車を待った。 やがて「もとずろう温泉」のある尾花駅行きの電車が予定通りに来た。 二人は電車に乗ると座席に座り目を閉じた。話していると冗談を言うはなえだが…

「闇が滲む朝に」🐑章 第20回「二人の逃避行 あったかいコーシーを飲みながら」

あんた、コーシーは好きなの 土曜日早朝のコーヒーショップに客はほとんどいない。軽音楽が店内を華やかな雰囲気にしている。「おまちどうさま」 徹ははなえと自分のコーヒーをトレーに乗せて運んできた。「温泉は午前10時過ぎから入れるようだから。着く頃…

「闇が滲む朝に」🐏章 第19回「二人の逃避行 ちみの瞳に恋してるってか!?」

秘めた二人の逃避行? 「この前に外出したのはいつだったかねえ。夏ごろだったかなあ」 はなえがタクシーの窓の外を眺める。「8月頃・・・・?」「そうだね。確か・・・・」 タクシーが信号待ちで停車した。「確か息子夫婦と食事したんだね・・・・」 再び…

「闇が滲む朝に」🐑章 第18回「二人の逃避行~それでも見つかるわけにはいかない」

土曜日、「ラッキー園」の近くで 結局、その日、徹はスーパーでは妻の多恵子には会わずに自宅に戻った。マイ子にも妻に会いに来たとはいえず、夕方のレジ打ちで忙しい多恵子に会ったところで迷惑な顔をされるだけだと思ったのだ。マイ子と別れ仕方がなくスー…

「闇が滲む朝に」🐑章 第17回「えっ?スーパーで偶然に会った人が」

夕方のスーパーで発見 徹の妻・多恵子が働くスーパー「モリダクサン」は1階が食品売り場で2階には衣類や日用雑貨を中心に販売している。店舗によって面積や形態も違うスーパーだが、「モリダクサン」は大型の物とは違い食品に特化した店舗だ。 だから平日…

「闇が滲む朝に」🐑章 第16回「一日、一日を精一杯に生きるということ」

ふたたび、「戦時下を思え」 夕方の5時半過ぎ、徹はスーパー「モリダクサン」の方に向かいながら思う。いつもなら一人でテレビを見ている時間帯だ。テレビといっても特に自分が見たい番組を見るわけではない。 ただ、コーヒーを飲みながら、ぼんやりとニュ…

「闇が滲む朝に」🐑章第15回「家族の冬風には、冗談も笑っていられないなあ」

すれ違いの増えた家族 徹が図書館を出る頃には午後4時を過ぎていた。そのまま、「ラッキー園」に戻り駐輪場のバイク置き場にいく。徹はいつも「ラッキー園」まで50㏄のバイクで通っているのだ。 ヘルメットをかぶりながら、徹はついさっきに会った春香さん…

闇が滲む朝に」🐑 章第14回「忘我の時、全ては満たされると、春香さんは笑った」

プライドが邪魔するとマイナス 徹には図書館館内の喫茶店で、皿やコップを洗う音が聞こえてくる。静粛の中の図書館で、ここだけは少し違う雰囲気を醸し出している。 正面に座る春香さんはコーヒーを飲みほした。 「コーヒー、もう一杯、飲もうか」「自分はま…

「闇が滲む朝に」🐑 章第13回「辛い時は戦時下を思え、と春香さんは言った」

図書館であの人に再会「初心・・・・大事だよなあ、やっぱ」 徹は控室の壁に貼ってある「初心忘るべからず」の言葉を頭の中で反芻しながら「ラッキー園」の外に出た。 午後3時過ぎ、冬の空は晴れているとはいえ、どこかグレーの色合いを漂わせつつあった。…

「闇が滲む朝に」🐑 章 第12回「絶望するなかれ。今が大事よ。身体が動けば何でもできる」

身体が動かないと苦痛になる仕事 徹は目を覚ますと、ずずっと椅子からずれ落ちそうになった。な、なんだ、今の夢は・・・。そのまま椅子に座ったままで、ぼおおっとしていた。いつもゴミの回収をし終わるのが午後2時過ぎだから、終業時間の午後3時までは1…

「闇が滲む朝に」🐑 章 第11回 「夢をバクに食べられたい」

新年あけましておめでとうございます。 本年もよろしくお願い申し上げます。 令和2年 元旦 天野響一 五十六は一体、何者なんだ 徹は目の前で何が起こったのか分からなかった。一瞬、自分はかまいたちに切られたのではないか、顔面の左ほおに強烈な痛みを感…

「闇が滲む朝に」🐑 章 第10回「ぶうん!! ん?突然の五十六の足蹴りに怯む」

中華屋の客はほとんどが建設作業員 「中華屋・ぶんぺい」はいつの間にか満席になった。客のほとんどが建設作業員だ。 騒がしい中で徹は「ちゃんぽん麺」をすすりながら目を閉じた。熱いのだ。 「弟さん、クリーンモリカミで働いてどれくらいになるんですか」…

「闇が滲む朝に」🐑 章 第9回「昼間からビール三昧の五十六の鋭い眼光にヒヤリ」

昼から生ビールを飲む顔の大きな男 徹は文平の言う、たかど、という名前を聞いたことがなかった。 「たかどさん・・・・ですか」 「確か、『キタキツネビル』で働いているって言ってたな」 顔の大きなベートベン似の男が言った。 「『キタキツネビル』ですか…

「闇が滲む朝に」🐑 章 第8回「ジャジャジャジャーン、ベートベン男と会った」

中華屋で会った顔が大きい男 徹は「ラッキー園」を出ると道の向かい側の「中華屋・ぶんぺい」の暖簾が出ているのを確認した。信号が青に変わったのを確認すると、急ぎ足で歩道を渡る。 「こんちわ」 「中華屋・ぶんぺい」の戸を開ける。ガラガラと音を立てて…

「闇が滲む朝に」🐑章 第7回 「中華屋の文平が宝くじを当てた理由」

昼飯は中華屋のぶんぺい しばらくして伸江に続き明子も控室も出た。高齢者施設「ラッキー園」の午前中の清掃の仕事はこれで一段落する。午前11時40分過ぎ、徹はクリーンモリカミのスタッフが常駐する控室を出ると、そのまま施設のエントランスへと向かった。…

「闇が滲む朝に」🐑章 第6回。「かえるぴょこぴょこ 、超早口で仕事も早い人」

仕事も早いが話しぶりも早い人 「とにかく、明日、チェックするから、綺麗に磨くのよ」 明子は話を戻すとお茶を飲んだ。 シングルマザーの飯山伸江も戻ってきた。「お疲れさまです」 伸江はいつもの早口で言うと控え室奥の自分のロッカーの方に向かう。「お…

「闇が滲む朝に」🐑章 第5回  「綺麗に磨けば心も洗われるのよ」

ひたすら身体を動かし続ける仕事 徹は「ラッキー園」の総務の部屋を過ぎ、奥の小さな清掃員用の休憩所に入った。午前11時、そろそろ明子も伸江も休憩にはいる時間帯だ。 徹の仕事は午前6時から午後3時までと契約されているが、実際には午前中は11時半ごろ…

「闇が滲む朝に」🐑 章 第4回「渡り鳥のように飛び続けることができるか」

渡り鳥の飛来に感謝する 徹はカートから落ち葉の入った90ミリリットルのビニール袋を取り出し、高齢者施設「ラッキー園」の庭の隅にある横用具入れ隣のゴミ収集倉庫に置いた。 ピーッ、ピピピ、どこからかツグミの鳴き声が耳に届く。 目の前に広がる青い空と…

「闇が滲む朝に」🐑 章 第3回「人間も冬眠すればいいのに」

人間も夏眠や冬眠すればいいのに 清掃の仕事の悪さを指摘されるたびに、森木徹は一体、このばあさんどうしたの?と思うくらいに、突然に雷神のような顔に豹変し、睨みをきかす明子を思い出しながら、(・д・)チッと舌打ちする。『ったく、るせいババア』だと思…

「闇が滲む朝に」🐑章 第2回「AIの庭掃除ロボットができたら、ますます仕事がなくなるだろうなあ」

やっぱ、人の命を奪う自然は恐い キーンと冷気が張る静かな金曜の午前9時過ぎ、ピピピッ、ピピピッ、ピピピ・・・銀杏の木々が青空にそびえ立つ園内に、ツグミのさえずりだけが森木徹の耳に響く。徹の3メートル程先に立つ柿の枝々で2羽のツグミが行き交う…

「闇が滲む朝に」🐑 章第1回 「巨大台風が去った秋に、何かが変わろうとしていた」

一寸先は闇でも、俺は生きている 俺はまだ、こうして生きている。 バイクを降りヘルメットを前の籠に入れながら森木徹は、ぽつりと言う。 9月から10月にかけて日本列島をモンスター台風が襲った。 かつて日本人が経験したことのない巨大な台風は、ここ数か…

「闇が滲む朝に」第☆章17回(最終回)「人は死なない。苦しみ他界して死者となる」

あらすじ 片山と良子たちは客の柴田たちを送ると料亭に戻った。そこで片山が意外な柴田の状況を聞かされる。第☆章の最終回。 客の柴田の意外な容態 「今日、四階に来たお客さん」 ふと良子が言った。「柴田さん・・・ですか」 片山がボードに記入されていた…

「闇が滲む朝に」第☆章16回「ただ笑顔で、花束をあなたに」

料亭「鈴音」での土曜の自動車メーカーの宴会は終了した。続いて4階のお客である柴田の食事会も終わろうとしている。片山は女将の良子に頼まれた通り、マーガレットの咲く庭に出て、花を切り始めた。 料亭の庭に咲くマーガレットとコスモス 片山は「鈴音」…

Novel「闇が滲む朝に」第☆章15回「マーガレット・・・・花言葉は真実の愛と信頼」

「鈴音」では自動車会社の客たちの宴会が終わり、片山たちは「ひまわり」の部屋に清掃に入った。今日はもう一軒、客が来ている。4階の「紅葉」には柴田紀夫が家族を連れてきていた。良子は柴田にメニューの説明を始めた。 庭に咲くマーガレットの意味 「鈴…

Novel「闇が滲む朝に」第☆章14回「何があっても挫けない、諦めない、思いが現実を作る」

土曜日の午後2時、片山は「鈴音」に着いた。ビルの中では昼から自動車会社の宴会が開催されていた。今日はもう一件、予約が入っているという。まだ、宴会が終了するまでには時間がある。片山は鶴子と倉庫で立ち話を始めた。九州には台風が上陸し、やがて関…

Novel「闇が滲む朝に」第☆章13回「ある日、自我を捨て奉仕せよと月が言った」

今まで本など読む時間がなかった鶴子が、本を読みだしたのは最近のことだ。それも時代小説ばかり読んでいた。そんな鶴子は宮沢賢治の「雨にも負けず」の詩のことを、息子から紹介されて気に入ったのだ。鶴子が「銀河鉄道の夜」を読んでいるのは、必ずわけが…

Novel「闇が滲む朝に」第☆章12回「くふふと笑いながら銀河を旅した日」

片山は1階に降りると、ビル続きの倉庫に入った。倉庫では鶴子が用具類の整理をしていた。鶴子は良子の様子を聞いてくる。数か月前に体調を崩し1週間ほど休んだのだという。元気そうな鶴子も料亭の女将となると何かと大変なんだと片山は思う。そんなことを…