Novel life~musashimankun’s blog~

漫画「きっと、いいことあるさ~君が住む街で~」を週刊で連載しています。

漫画「きっと、いいことあるさ~君が住む街で~」◎1日がはじまる

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「闇が滲む朝に」🐑章 最終回(第35回)「それでも桜は咲くっさ、負けねでファイト」

さあようこそ、のど自慢に

 ヒゲさんの車で徹たちが「もとずろう温泉旅館」に戻ったのは、その日の午後6時前だった。はなえはそのまま温泉に入り、食事をした後は自分の宿泊部屋に入った。
 徹は午後7時から宴会ルームで行われる「もとずろう温泉旅館 のど自慢大会」を見ながら酒を飲むことにした。今回はさすがに参加者も少なく6人ほどだという。コロナウイルスの影響で宿泊客は皆無に等しく、徹とはなえの他は地元の人ばかりだった。宴会ルームには空気清浄機を四方に設置し、ずんいちろ社長はこういう時期だからこそ、皆が元気を出すために開こうと決めたのだ。
 
「やあやあ、ようこそ」
 宴会ルームに徹が入ると、マイクテストをしていた男が声をかけてきた。
「初めてですね。地元の人じゃないね。今日は思い切っきり歌ってさ」
「いやいや、僕は見に来ただけですよ。参加しなくても。見るだけでいいからってヒゲさんに言われました」
 「そう。ヒゲさん・・・そんなこと言っていましたか。それじゃま、ゆっくり飲んでくだあっさい」
 いつのまにか宴会ルームには次々に参加者が集まってきた。ずんいちろ社長にヒゲさん、そして徹に声をかけたきた道太郎・・・・そして女将のいちこ、ヒゲさんの妻・京子さん。
 
道太郎、「わん・らぶ」を唄う
「今年はコロナウイルスの影響で参加者も少数になりますた。『のど自慢大会』というより、宴会だけども、せっかくだから楽しんでくだあさい」
 午後7時過ぎ「のど自慢大会」はずんいちろ社長のあいさつと乾杯の音頭でスタートした。最初に唄ったのは地元の小学校の音楽教師である道太郎だった。ジャマイカのレゲェ歌手であるボビ・マリの大ファンである道太郎は、彼の代表曲である「わん・らぶ」を唄う。引き続き披露されたのは「じゃみんぐ」そして、「えくそだす」で閉めた。
 徹はなつかしいレゲェの名曲を聴きながら、自然と自分の身体がリズミカルに動いていることに気づいた。こんな気分は何年ぶりだろう。

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 引き続き、ずんいちろ社長がマイク舞台に立つと持つ。演歌歌手の石川ゆりの「日本酒がお好きでしょ」「つがるかいきょう」と曲は進む。
「今日はおのおのが酒を飲みながら、好きに歌うカラオケ大会だ。さ、みなさん、食べて、飲んで、とにかく唄うだ、わっはっはっはは」

 ずんいちろ社長が笑いながらヒゲさんにマイクを渡した。

 

「ま、今日はお客さんはいないな。あ、一人、そこにいた、いた。わっはっはあ」
 今度は「指圧の心のおじさん」みたいに、ヒゲさんが笑いながら徹の方を向いた。
「一緒に歌うか」

 ヒゲさんが声をかける。バックからハイテンポの曲が流れてくる。
「これは、プロレスやってたころの入場曲ですた。自分は歌えないけどさ、いい曲でさ」
 流れてきたのは「M・ウイズ・ミッション」の「フライ」だ。これは本当にいい曲だ。いぇい♫
 
 続いてヒゲさんはサウザンオールスターズの曲を2曲披露した後で「じゃあ、最後の歌です。『負けねでファイト音頭』を唄います」とマイクを持ち直した。
 「人生は四角いリングさ、嵐も来れば、雨も降る。だから、どんなに試練さ来ても辛い時も、太陽が昇ること忘れねえで、負けねでファイト、負けねでファイト」
 「人生は四角いリングさ、嵐も来れば、雨も降る。だから、どんなに試練さ来ても辛い時も、太陽は昇ること忘れねえで、負けねでファイト、負けねでファイト」
 少数でも盛り上がり、深夜まで「のど自慢大会」は続いた・・・・・。 

 

 お湯に浸かりながら桜を見る
 ★★★
 翌朝の午前8時過ぎ、徹は「もとずろう温泉旅館」の温泉に身体を浮かばせながら、窓から見える桜を眺めていた。昨日は少し飲みすぎたのか、気分はぼおーっとしていたが桜を見ながら温泉に入ることは、初めてだった。ゆらゆらお湯に浸かりながら、自分はリストラされたけど、なんか、とてもいい経験を見していると思う。
・・・・・・・・・・。 

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「ねえ、森木さん」
「森木さん・・・」
 いい気分の徹の耳元で声が響いた。
「森木さん、もう夕方の5時過ぎですよ」
 誰かが森木の肩に触れた。
「森木さん、大丈夫ですか」
 ウトウトしていた、徹の目の前に、かすかに高齢者施設「ラッキー園」の片岡マイ子の顔が浮かんだ。
 
「え!?」
 徹が驚いて目を覚ます。
「こんな所で寝ていたら、風邪、ひきますよ」
 徹はマイ子の声に驚いて、自分の椅子から転げ落ちそうになった。
「え、今、な、何時ですか」
 徹が自分の机の上の時計を眺める。
「ですから5時を過ぎました・・・・。いつもなら、とっくにいないのに、事務所の電気がついていたから誰かいるのかなって。そしたら、森木さんが寝ていて・・・。今はコロナウイルスで施設内も厳戒体制に入っていますから、ちゃんとしていただかないと困りますよ。まったく」
 マイ子が語気を強めた。
「え!? す、すみません・・・・」
  緊張した面持ちで、思わず徹はマイ子に敬礼するように、椅子から立ち上がった。

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 「闇が滲む朝に」🐑章は今回で終了します。
  長い間、ご愛読ありがとうございました。
  ブログは次作準備のため、休み期間に入ります。
  また、よろしくね(^^♪(^^♪(^^♪。

 

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「闇が滲む朝に」🐑章 第34回「なんてこたあ、ねえっさ。負けねっさ」

なんてこたあ、ねえっさ
「のど自慢、大丈夫ですかね」
 徹がヒゲさんの顔を見る。

「やるっさ。どんなことがあっても『もとずろう温泉』のずんいちろ社長は、どんな状況になってもやるっさ。この前もあの温泉は完全防備してるから、ウィルスなんか吹き飛ばすって言ってっさ。参加者もずんいちろ社長のこと好きだから、いつも通りやるっさ。なんてこたあ、ねえっさ。フェイトフェイト」
「ファイト、でしょ」
 京子がヒゲさんの話に口を挟んだ。

 「うん。フェイト?。そう。ファイト、ファイトだよ」
 ヒゲさんは言いながら笑った。
「はなえさんは、あまりご無理さならない方が」
 京子がはなえの方を向いた。
「私は温泉に入って、食事して寝ます。のど自慢なんかには出ません」
 はなえがお茶を飲んだ。

 

応接室の本棚に並べられた本
「結構、本も多いですね」
 徹が応接間の壁際にぎっしり並べられた本を眺めた。壁に本棚が組み込まれていて移動できるようになっている。
「こう見えても読書家なんです。この人・・・・」
 京子が本棚を見ながらポツリと言った。

 「いや、いや、京子の読む本ばっかだから」
 ヒゲさんが珍しく照れた様子を見せる。
「ほとんど、あなたの本ですよ」
「ま、夜は暇な時もあるっさ」
 ヒゲさんが目をつぶりながら頭をかいた。

 「最近はゲームや映画は、みんなプレーしたり観たりするようですが、以前と比べると、なかなか本は読まれなくなっちゃったって聞いたりしますが」
 徹も本棚を見た。

 

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アスリートには読書家が多い
「でもアスリートには結構、本が好きな人も多いらしいですよ。ボクシングの世界ミドル級チャンピオンの村井さんなんかも読書家で知られていますし、サッカー選手や陸上選手なんかにも読書家は多いですね。主人も元はスポーツマンですし」
 京子がいくぶん弾んだ声で言った。

 「自分自身のことをじっくり考えたりするにはね。やっぱ、常に自分を鼓舞し省みながら、試合に挑むことが多いからでしょうね。特にスポーツの世界は厳しいですから」
 徹らしからぬ発言にはなえが少し驚いた。

「私も本は好きだけど、ヒゲさんは何が好きですか」
 今度ははなえが聞く。
「なんでも読むっさ。仕事関係はもちろんだけどさ、経営関係、経済、精神世界からノンフィクション、小説、ジャンルは問わないっさ。最近は電子書籍もどんどん増えているから、スマホでも、どこでも読めるさ。便利になったさ」
 ヒゲさんは少しぶっきらぼうに答えた。

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「闇が滲む朝に」🐑章 第33回「イノシシと闘ったさ。野良仕事も毎日が命懸けっさ」

ジョイは綱なしで外に出さねっと
「ただいま」
 徹たちが京子と話しているところに、ヒゲさんが帰ってきた。
「おかえりなさい」
 京子は笑顔でヒゲさんを迎えた。
「今日は早いわね」

 

「ああ。お客さん、あんまり待たせちゃいけねっから」
「おかえりなさい」
 京子からヒゲさんのことを聞いた徹とはなえは改めて見直すように、ヒゲさんに挨拶した。

「すみません。ジョイだけは毎日、朝晩、外に連れていかねっど。運動不足になるっけ。コーシー、持ってきて。それともお茶がいいですか」
 ヒゲさんはテーブルの上の、徹の空になったコーヒーカップを眺めた。

 

クマとかイノシシも出るさ
「おかわりがいいですか」
 京子が二人に聞く。
「いえいえ、もうお構いなく」
 徹が頷きながらはなえの方を向いた。
「ええ、もう。いただきましたから」
 はなえが頷いた。

 

「はなえさんはお茶だね。で、こちらはコーシーだね」
 ヒゲさんが徹の方を向いた。
「すみません・・・・じゃあ、もう一杯いただきます」
 徹が京子に頭を下げた。

 

「どうですか。すずかでいいでしょ。この辺は」
「ええ、本当に静かですね。ジョイはいつも綱はつけないで散歩に出るんですか」
 徹がジョイとヒゲさんのツーショットの写真を見る。
「ああ、その方がジョイもええ。俺についてくるさ。でもね、ここは気をつけなきゃいけねえことも多いさ」
 ヒゲさんが一人用のソファーに座る。

 

「クマとかイノシシ、最近はシカもしょっちゅう出るさ。前はこんなことあんまりなかったんだけども」
 京子がコーヒーを運んできた。ヒゲさんが徹に勧める。

 

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健康が一番、でも毎日が命懸けっさ
「ありがとうございます。今は殺人ウィルスで世界中が騒いでいるし、都会を離れても、本当に今はどこでも生活するのが大変になりました。見える敵だけでなく、見えない敵とも闘わなきゃいけないし・・・・」
 徹がコーヒーを飲む。
「うんだ。イノシシくらいなら。何とかなるけども。クマさ来たら・・・大変だ。いっぺんで殺されるさ」
 ヒゲさんが腕を組んだ。

 

「ほんとに大変ですね・・・・大丈夫ですか」
 徹が聞いた。
「イノシシとはなんどか、取っ組み合いやったことあったさ。野良仕事やってた時に、突然に後ろから来たから、びっくりしたけども。その前にジョイが急に吠え出したから分かったさ」
「そうですか」
「ジョイがいなきゃ、また、どうなってたか分かんねぇ。なあ」
 ヒゲさんが京子の方を振り向いた。

 

「本当にジョイが助けたようなもんです。今は本当に健康な身体あっての生活ですからね」
 一番、入口に近い方のソファーに座る京子が笑みを返した。
「本当さ。何より健康でなきゃな。ま、何やってもおんなじだけど。野良仕事も漁業と同じように、毎日が命懸けだからさ」
 ヒゲさんがコーヒーをすすりながら、ゆっくりと飲んだ。

 

 

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